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ヴィセンテ・アランダの 鮮血の花嫁
La novia ensangrentada



スペイン
1972年

AKA:Blood Castle/
Bloody Fiancée/
/Till Death Do Us Part

製作会社:Morgana Films
監督:Vicente Aranda
プロデュース:Jaime Fernández-Cid
音楽:Antonio Pérez Olea

キャスト:
Maribel Martín
Alexandra Bastedo
Simón Andreu
Dean Selmier
Rosa-Maria Rodrigues

<物語>

 ハネムーン旅行もそこそこにトミー(サイモン・アンドリュー)は妻スーザン(マリベル・マルティン)を連れて、幼年期を過ごした彼の故郷に向かう。
 ところが、夫の故郷においてスーザンは花嫁姿の妖しい女性の幻影(アレクサンドラ・バステド)を度々目撃するようになり、すっかり情緒不安定となってしまう。その妖しい女性はスーザンに短剣を渡し、トミーを刺し殺すよう要求する。
 やがて、スーザンはトミーの家系が吸血鬼と化したカルシュタイン一族の末裔であることを知ることになり、自分が観た女性の幻影は中世に存命していたミルカラ・カルシュタインではないかと戦慄する。
 そして、ついにトミーの前にミルカラの化身と思しきカーミラ(アレクサンドラ・バステド)という謎の女が出現するに及び、スーザンの不安は最高潮に達する。

<解説>

 70年代初頭に英国のハマーが『バンパイア・ラバーズ』Vampire Lovers(1970年)を製作して以来、欧州の製作会社はこぞってレ・ファニュの原作「吸血鬼カーミラ」を映画化した。その作品の殆どはこの有名な古典の映画化であることを口実にしたセクスプロイテーション作品であったが、中にはスペインのジェス・フランコやフランスのジャン・ローランJean Rollin等が手掛けた幾分アートがかった作品も存在していた。
 そして、奇才
ヴィセンテ・アランダがこうした動きに呼応して製作したのが本作『鮮血の花嫁』であった。ところが、欧米のホラー映画評論家達は本作をロジェ・ヴァダムRoger Vadim 『血とバラ』Et mourir de plaisir(1960年/仏)と前述の『バンパイア・ラバーズ』の劣った焼き直しと評し、本作に単なるエログロ作品の烙印を押したのである。本作の趣向は『血とバラ』に近い性的なものであるものの、確かに表現アプローチ自体は『バンパイア・ラバーズ』以上に露骨な性そして流血の直接描写であった。こうした一見下世話なホラー演出が本作をアランダの意図せぬセクスプロイテーション作品としての評価へと貶めてしまったのである。
 それでも、本作がアランダの作品であるという事を予め留意しておくならば、本作を単なるエログロ・ホラー作品として観ることもないだろう。そもそも、吸血鬼という概念は人間の内なる暴力、性をシンボライズしたものなのだ。ここに商魂著しい製作者達が食い入る余地があるわけで、猥褻と芸術の境界線は個人の主観に委ねられることとなる。ことアランダに関しては、本作からも解かるように彼が金儲け主義のエクスプロイテーション監督ではないのは明白であるし、本作において見受けられる彼らしい印象的な演出の数々にもう少し目を向けるべきであろう。本作を単なるエログロ作品として片付けてしまってはならない。
 先ず、本作はサディスティックな残忍性を潜在させている夫トミーとほのかなレイプ願望を抱く妻スーザンの退廃的な恋愛物語であることを指摘おこう。そうしたプロットにカルシュタイン伝説を織り交ぜることで、本作のテーマである愛情と殺意の性的同義化を試みているのだ。
 罠に掛かってもがき苦しむキツネをためらいもなく猟銃の弾丸一発で安楽死させるトミーの姿には、彼が女吸血鬼と結ばれたスーザン、そして少女キャロルを猟銃で殺害していくという衝撃的な結末への伏線が呈示されている。
 一方、冒頭において見知らぬ男にレイプされる幻に身を委ねるスーザンに至っては、自らの性癖ゆえに夫トミーのエスカレートしていくサディスティックな性行為を受け入れざるを得ないどころか、ついには女吸血鬼との刺激的なレズビアン行為へと傾注していくのである。
つまり、女吸血鬼カーミラの存在はトミーとスーザンの願望をシンボライズさせたものであり、彼らの退廃的な愛情表現が育んだ産物であることを匂わせている。
 こうした倒錯した恋愛劇はスペインの牧歌的な寒村、そして朽ち果てた古城を背景にしてスローテンポで描かれており、アート・シアターを思わせるような繊細な演出に彩られている。かくして、本作は流血の滴る内臓を掴み出す等のグロ描写やあからさまな性描写を時折配しているものの、ゲテモノの極みを期待しているホラー愛好家からすれば、いささか眠気を誘うような中途半端なホラー作品であると言えよう。そう、本作はホラーの姿をまとった正にアランダらしい恋愛悲話なのである。
 そして、牧歌的な風景が描かれたキャンバスに跳ねつけられた鮮やかな赤いペイントとでも形容できようか。
レオン・クリモフスキー等の作品にも見受けられるこうした詩情性あふれるテイストこそスペイン産ファンタジーの醍醐味なのである。


2006.08.04 All rights reserved by Lina Romay???