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フェイ・ダナウェイの『アイズ』

 



原題:Eyes of Laura Mars
製作会社:Columbia Pictures Corporation

製作年度:1978年
監督:Irvin Kershner
プロデュース:Jon Peters, Jack H. Harris(as executive producer)
音楽:Artie Kane
キャスト:Faye Dunaway, Tommy Lee Jones, Brad Dourif, Rene Auberjonois,
Raul Julia, Frank Adonis, Lisa Taylor, Darlanne Fluegel, Bill Boggs

<ストーリー>

 ローラ・マース(フェイ・ダナウェイ)はニューヨークを拠点に活躍するカメラマンである。彼女は過激な暴力と性をコンセプトにした写真集「ローラ・マースの瞳」を完成させ、発刊に先立ち記念式典を開催した。華やかな式典が進行する中、突然ローラに衝撃的な知らせが舞いこんでくる。発行者のドリス(メッグ・マンディ)が殺されてしまったのである。愕然とするローラ。それもその筈、彼女は前日、ドリスが殺される夢を見ていたのだから。そして翌日、ローラは撮影中ファインダーを覗いていると、ギャラリーの支配人エレーヌ(ローズ・グレゴリオ)が殺される幻を見る。そして、彼女が見た幻のとおり、エレーヌは殺されてしまうのであった。
 ローラの予知能力に興味を持ったネビル刑事(トミー・リー・ジョーンズ)は、ローラと共に捜査にあたるのだが、彼らをあざ笑うかのように殺人が次々に勃発する。犯人はローラの前夫マイケル(ポール・ジュリア)なのか?それとも運転手のトミー(ブラッド・ダリフ)なのか?しかし、犯人は意外な人物であった。

<解 説>

 大手のコロンビアはフェイ・ダナウェイとトミー・リー・ジョーンズを起用して、本作『アイズ』(1978年)を製作した。原案および脚本は当時気鋭のジョン・カーペンター、監督はベテランのアービン・カーシュナーである。そう、本作はキャスト、スタッフを見る限りメジャーの大予算映画であって、本来なら本サイトが取りあげる対象とはならない。しかし、サスペンスとしても、またホラーとしても半端な本作は不発に終わり、評論家筋からは中身のないサスペンス作品として酷評されるに留まった。つまり、見知らぬ大作となってしまったのである。日本でも、恐らくフェイ・ダナウェイのファン以外はお目にかかったことがないであろう。しかし、我々の着目するポイントはサスペンス性でも、ホラー性でもない。70年代という時代性、そして超能力というモチーフにどうアプローチしているのかということである。

 バーブラ・ストライサンドが歌うソウルフルな主題歌が流れたあと、場面はニューヨークにそびえる高層マンションにある主人公ローラの自宅へと移り、続いてきらびやかな夜の社交界シーンへと移行していく。オープニングから既にハリウッド映画らしい贅沢かつ大味な演出である。こうしたエレガントかつスタイリッシュな趣向は本編を一貫しており、本作の意図するものである。本作はサイキック、サイコパスなどのモチーフを散りばめながらも、あくまでも主軸はフェイ・ダナウェイが織りなすサスペンスフルなラブ・ロマンスなのである。それでもローラを苦しめるサイキックなフラッシュバック映像は、デ・パルマのような非凡な演出を確認できる。

 ローラの超能力は予知というよりも、リモートビューイング(遠方知覚)に近い。更にはサイコメトリーのように繰り返しフラッシュバック映像を脳裏に再生するのだ。冒頭ローラは悪夢にうなされている。悪夢はさながら犯人の眼を通して繰りひろげられているようだ。よって、ローラは犯人の姿を確認することはできない。犯人はローラの写真集を眺め、ターゲットを絞りだす。そして、ターゲットに忍び寄りジャックナイフを突きたてるのである。犯人は被害者の眼球めがけてナイフを突きたてるのだが、それと同時に写真集の表示を飾るローラ自身の顔、それもローラの眼球にナイフが突き刺されるカットがインサートされる。被害者の絶叫、そしてローラの眼に突きたてられるナイフ、混ぜん一体となった悪夢のクライマックスに絶叫し飛び起きるローラ。

 こうした印象的なフラッシュバック演出により、犯人の本当のターゲットはローラであり、彼女の眼を恐れていることを我々に暗示させる。後にローラはネビル刑事の口から、自分の写真集に用いたセットやアングルは警察にしか存在しない殺害現場の検証写真と瓜二つであることを指摘されるのだ。そう、過激な性とバイオレンスの描写で話題をさらった写真集「ローラ・マウスの眼」はサイコパスによる実際の猟奇殺人を再現したドキュメントだったのである。犯人からすれば、ローラに犯行を目撃されスクープされたようなものだ。つまり、冒頭のフラッシュバック映像は本作における謎解きのキーを託されている重要なシーンなのである。これを認識できたか、できないかで、本作の楽しみ方は大きく変わってしまうのだ。認識できない場合は、甘ったるい恋愛をかました単なるサスペンスの凡作にしか感じないであろう。

 このように本作の原題であり、ローラの写真集タイトルでもある‘ローラ自身の眼’は、本編において万華鏡のようにくるくると変貌する。ローラの眼は社会の病巣を見抜く。ローラの眼はサイコメトリー能力を有する。ローラの眼は真実を欲する。そして、ローラの眼は愛する人を見つめる。たとえ彼が犯罪者であっても・・・。

 本作は当初バーブラ・ストライサンド主演で企画がスタートしたが、最終的にフェイ・ダナウェイがキャスティングされることとなった。確かにバーブラ起用なら、本作のラブロマンス設定も理解できる。インテリタイプのフェイ起用では、少し甘ったるい脚本である。それでもコロンビアとしては、フェイ・ダナウェイを迎え、『チャイナタウン』(1975年)や『ネットワーク』(1976年)に続く彼女の主演ヒット作にしようと目論んだのだった。結果は玉砕。敗因はカーペンターの背伸びをした脚本やカーシュナーによるくせのない演出にあるのは明白だ。実のところカーペンター自身は自分が脚本家として未熟であるがゆえに、脚本をいじられてこのようなラブサスペンス作品にされてしまったことを嘆いている。

 本作は確かにサスペンスとしては中途半端であり、駄作であることは否めない。とは言え、ディスコを象徴とする70年代後半の空虚な喧騒を満喫できるノスタルジーかつサイキックな作品であり、時おり見せるインテリジェンスにはっとさせられる佳作なのである。そして、フェイの特徴である動物的かつ神秘的な眼差しは、当初の起用予定だったバーブラのそれよりも、本作の主人公ローラにマッチしていると思う。もしバーブラが起用されていたら、更に酷い作品になっていただろう。


2007.11.24 by Lina Romay????